ひびの祝福

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留学先で受けた言語学の授業を紹介するよ!

 はい千代子です。今回は好きなものっていうかいま大学で一応勉強していて好きだな~って思っている言語学についての記事です!いえい!留学先で受けた言語学の授業について、言語学という学問自体の説明も交えながら紹介していきたいと思います。言語学って何?海外の大学の授業ってどんな感じ?といったひとびとにはぜひ読んで参考にしていただきたい。言語学徒のみなさまにおかれましては、不適切な表現などがありましたら遠慮なくばかすか指摘してください!!!コメント大歓迎でござる。それでは行くぞ!今回も長いぞ!

アメリカの授業一般について

 さてアメリカでは……って言おうとしたけどアメリカの大学は学期制度からして2学期制(セメスター制。日本のものと似ている)と4学期制(クオーター制。日本でいうところの1学期がさらに半分になる)とがあり、一概に全部こうだ!!!っていうのはわたしには言えないので、とりあえず自分の留学先のことについて書くよ。

 わたしの留学先の大学はセメスター制を取っていて、週50分の授業で1単位になっており、1つのクラスにつきだいたい週に3回50分/2回75分の授業で3単位になっています。同じ科目の授業を週に複数回取るのがふつうだよ!これはアメリカの大学全体に言えることだと思います。日本みたいに1つの科目につき週1回、というのはほとんどなくて、あったとしても1日に3時間とか4時間とかぶっつづけであって合計3,4単位みたいな無茶すぎるスケジュールになるらしいです。*1 そして1学期あたり最低でも12単位、つまり4クラス分を履修しなければフルタイムの学生としてみなされません。この大学は卒業に必要な単位が全部で120単位らしいので、だいたい1学期あたり15単位ずつコンスタントにとっていくと4年で卒業できる計算ですね。学期当たり12~15単位を履修する人が多いそうです。そして学期当たり最大では18単位登録することができます。

 そしてクラスのレベルはタイトルに振ってある番号で大体わかります。クラスごとに科目を表す英文字と3桁か4桁の番号が振られていて、この数字が大きければ大きいほど難しいレベルのクラスになります。たとえばこれから紹介する私のクラスのうちLING143"Phonology(音韻論)"は、LINGuistics(言語学)学部提供の授業で、100番台なので学部レベル、LING243"Sem Syntax (統語論ゼミ)"は200番台なのでマスター(修士)レベルということになります。っていうこれはわたしの大学に独特なナンバリングで、もっと一般的なナンバリングとしては100番台は学部1年、200番台は学部2年……500番台は修士1年、と言った感じで百の位の番号と学年レベル(大学在籍年数)が比例する感じのものになります。大学自体のレベルもありますが、だいたいこの番号を参考にして履修を考えるといいと思いまする。ってかなに履修していいかわかんなかったら受け入れ先大学で所属する予定の学部の先生や受けようと思っている授業の担当教授に自分のバックグランドと学びたいことを話してアドバイスを仰ぐのが一番確実だと思います。ひとにきこう!!!実際に知っている人から聞くと一発だ!!!

2016年春学期にわたしが履修したクラス

① LING 142 Phonology (音韻論)

授業の概要:

 言語学の基礎分野の二大巨頭(今考えた言いまわし)のうちのPhonetics・Phonology(音声学・音韻論)、のうちの特にPhonologyの学部レベルの網羅的なクラス。人間言語はすべからく音声としてのかたちを有しているので(文字体系のない言語はあっても音声として現れない言語はないよ!*2)、その音(発音)が時代が進むにつれてどのように変化するのか、あるいは他の言語から語を借用する(日本語でいうところの外来語)際にはどのような変化があるのか、それぞれの言語間での音素(意味の変化を起こす最小の音の単位。英語ではrとlの違いは意味の違いを起こしますが("right"と"light")、日本語では「りす」を"risu"といおうと"lisu"いおうと、ちっさくて茶色くてカリフォルニアにはあちこちで見かけるあの小動物を意味するわけです。)の違いなどを分析したりそのルールを探ります。Phoneticsになるともっと物理寄りで、録音した音声言語の波形をみてああだこうだやります。Phonologyは前述したとおりどういう風に音が認知されていくか、どのように変化していくかに主眼を置いた分野ですが、Phoneticsは実際の物理現象としての言語音声を解析する分野になっております。はい。

評価:

 えーっとでこのクラスでは、出席はとくに取られず、評価の40%が10ページ上限の期末レポート、20%が5回ある宿題、20%が中間試験、残り20%が期末試験によってなされます。75分の授業が週2回で3単位でござる!宿題は教科書(先生お手製のファイルが入ったCD-ROMを買わされる)についてる練習問題を3、4問とくくらいで正直簡単である。試験も簡単である。事前に数時間復習していればオールオッケーでござる。

教授やクラスの雰囲気:

 日本で音声学とか音韻論を受けると日本語にまつわる問題、アクセントとか母音の無声化とか連濁とかがよく取り上げられるのかなと思いますが(全学共通の入門的なものしか受けたことないので専門のクラスでは違うのかなとも思いますが)、英語はもちろんヨーロッパ、アフリカ、アジア、あらゆるところのあらゆる言語の例がでてくるのでおもしろかったです。日本語や英語にはない要素を音素として採用していたりして、かなり物珍しく勉強になりました。先生はとても誠実で音韻論が本当にお好きなんだなあという感じのするひとで、学生の質問にもひとつひとつかなり丁寧に応じてくれていました。専門外のひとの質問というのは、その分野の枠組みができていない中でなされるので往々にして専門の枠組みを知っている人からすると答えにくいものだとつねづね感じているのですが、この先生はどんなに細かくて身近な例の話でも、さまざまな論文、事例を出してあらゆる角度から説明を試みてくれますし、なにより「そんなことをきくな」「そんなことに拘泥するなんて馬鹿だ」といった態度が一切ないので素晴らしいなあといつも感じていました。けど正直わたしは音関係の分野にあまり興味がないのでこの授業は出席が割とちょっと苦痛でした。すまん。

②LING 153 Psycholinguistics(心理言語学

授業の概要:

 言語学の中でも周辺分野とされる、とくに言語教育方面との結びつきの強いPsycholinguistics(心理言語学)の学部レベルの網羅的なクラス。心理言語学というのは言語獲得はどのようなメカニズムでなされるのか、第二言語の習得は容易なのか、どのような第二言語教育が適切なのか、人間はどのようなメカニズムで文章を理解し、算出するのか、といった心理学のうちでもとくに言語にまつわる内容を仮説をたてて実験をしてあーだこーだいう分野です(心理言語学のひとごめんなさい)。心理言語学においてよく主題になるものの提示→それぞれの主題・命題に対する仮説→それを示す・あるいは反証するような実験の手法と結果→その実験結果の解釈、といった流れを延々繰り返します。

評価:

 授業の三分の一以上の欠席で自動的に不可がつき、四分の一以上の欠席で自動的に本来の成績より1段階ひくい成績をつけられるというわりと出席をみられる授業。2週間に一度くらい、指定されたチャプターを事前に読み、特に興味を持った部分について要約したり自分の意見を述べたものを300~400wordで書くというReading Responseという課題が10回ほど課され、これが全部で全評価の50%を占めます。出せばだいたい満点くれます。あとチャプター全部読まなくても適当に興味ある見出しのとこだけ読んでも書けますので1回あたり3時間あれば確実に足ります。またオンラインで受験する(よって教科書・インターネット使用可)中間と期末の試験がそれぞれ12.5%ずつを占めます。範囲がやたら広いですが、事前に勉強しておくべき点も教えてもらえるし、事前に5、6時間復習しとけばインターネットも使えるしで余裕でござる。のこりの25%は自分で計画した実験のプレゼン・レポートです。一番つらい課題である。実験をするとなったら事前に被験者にお願いしてデータを取って分析をしてと突貫工事ができないからである。ああ~~~。先生から実験の手順や組み立て方に関してもほぼなんの説明もなく丸投げ状態なので実験を課す授業をしたことがないひとにはつらかろう。

教授・クラスの雰囲気:

 使った教科書が事典みたいな網羅的なものになっており、それをひたすら先生が説明する感じの授業でこの学部で受けた授業のうちでもっともつまらなかったです!!!!!もともと心理学や教育方面へはまったく興味がなかったのでさらに苦痛だった。うんち。教科書に書いてあることしか先生が言わないのでなら家で教科書自分で読みます、となる典型的な授業だったにもかかわらず無駄に出席をとるので(講義系のクラスでこのクラス以外に出席が加味される授業などなかったぞ!?!?)、わたしは死にそうになりながら出席しては置物化していました。学部レベルなこともあり学生もあんまり言語学ゴリゴリやってるような感じしないひとが多かった。先生はやさしくはあったし意欲的でもあったけど、網羅的教科書の内容をべらべら話すのは限界があるだろうよ……実験をさせてその評価の方法を学ばせたいならもうちょっと演習的な要素を入れるべきだろうと思いました。はい。っていうか個人的に基礎分野でない言語学にはあんまり興味が持てない(社会言語学とか応用言語学とか)。

 ちなみに教科書はこれでござる。厚い。

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③LING 243 Sem Syntax (統語論ゼミ)

授業の概要:

 はいきましたSyntax、統語論です!!!わたしが最も好きな分野です!!!イエーイ!!!言語学の基礎分野における二大巨頭のもう片方がこの統語論でござる。いわゆる文法、文構造の分析をします。人種に関わらず生まれ育った言語環境によって習得する言語が決まることや(両親が日本人でも、アメリカで生まれ育てば英語が母語になりうる)、赤ちゃんの言語獲得のメカニズムを考えた際、言語を理解し算出するためのメカニズムや枠組みがある程度生得的に与えられているとせざるを得ないこと(「刺激の貧困」問題*3)、ピジンクレオール*4などから、人間言語は、表面の構造こそそれぞれすんごい異なって見えるけど、やっぱり「人間」言語であるからには普遍的な構造やルールがあるはずだ!!!という見方にのっとり、統語論では普遍的な文構造(Universal Grammar)はいかなるものか!?ということの解明を目指して、さまざまな言語データを用いて、「仮説!検証!修正!」「仮説!検証!修正!」を繰り返してく超めっちゃ科学的な分野でございます。どうだおもしろそうだろう!!!!!きみも統語論をやろう!!!!!

 そしてこのクラスは院生レベルになっており、統語論の中でも最新の枠組みかつ割とマジョリティな枠組みであるMinimalism Programにのっとった分析を学びます。あのものを持たないで暮らそうぜっていうミニマリズムとは全然違うよ(ボケてみたよ!)!Pre-requisitのクラスとしては学部レベルの統語論があり(ここでは初期の枠組みのPrinciple & Parameterにのっとった分析をやりました) 、わたしは前学期に履修済みでしたので学部生でしたが受けさせてもらえました。イエーイ。日本でも入門的なクラスは2つ受けていたこともあり(初期の枠組みであるTransformational Grammar, P&P, Binding Theoryなどを扱ったものと、LFGという行列をつかった数理的な記述をする枠組みのもの)、授業内容は難しすぎることもなく簡単すぎることもなくとてもよいレベルでした。がんがんTree(樹形図)を書きます。

評価:

 全評価の60%が計8回ある宿題によってなされます。授業を聞いて丁寧に出せばだいたい満点がきます。授業を聞いていれば大丈夫。15%がリアクションペーパーで、チョムスキーという言語学に科学的な手法を持ち込んだ第一人者のスピーチだかなんかの動画を1つと、2つあとなんか記事を読んで普遍文法に関する議論を4,5ページぐらいの長さで書きます。なんだこれいまシラバス確認したけど2つもリーディングあるの???動画だけだと思ってた……。はい。のこりの25%はMinimalismの枠組みを用いてデータを分析してねってやつです。これは何枚書けばいいんだ……リアクションペーパーが以外に重くて困惑しています。うんちです。

教授・クラスの雰囲気:

 ほぼ修士の学生。2人優秀でおもしろい質問をするひとがいて、ふむふむと思って聞いています。授業はわりと早め。教科書にのっとってはいるが、要点をかいつまんでさら~っと流すので議論の流れや概念の導入の動機・正当性などについては自分で教科書読んでねというスタンス。授業ではTreeの書き方を主にやる。学生に書かせている間も教授はちゃんとクラスを見て回っていて(10人強のクラスということもあり)、つまづいているっぽいひとには丁寧に説明をしてくれる。こまめに質問はない?と聞いてくれるのでわたしもほかの学生もTreeの書き方から理論自体に関する質問、英語以外の言語の扱い方などを質問しやすい。丁寧に答えてくれるし参考となる論文を教えてくれたりあとでアップしてくれるのでうれしい。この先生も統語論がとても好きでかつ学生の面倒見もよく、わたしは一番好きな先生です。日本に帰国したら国際教養学士を取る予定ですっつったら"What a useless degree!"っていったのもこの教授です。好き。ラブ。あと授業内容のレベルがいい感じにチャレンジングなので!!!うん。でも提出物の体裁に細かいからいろいろ点をひかれて悲しい思いをしています。うう。

 ちなみに教科書はこれだよ!授業中、しばしば「Adgerはこういってるけどわたしは違うとおもうよ」っていう先生の注釈が入っておもしろい。

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④ LING 249 FIeild Methods

授業の概要:

 実践的なフィールドワークの院生レベルの授業。これの学部生版は類型論で、これも前学期に履修済みだったので登録させてもらえました。ウェイウェイ。ネイティブアメリカンの言語のネイティブを読んでひたすらデータを聞き取るという授業です。「りんご、はなんと言いますか?」「その男はりんごを食べた、はなんと言いますか?」といったことを延々聞いて書きとるよ!そして音韻論・形態論*5統語論、それぞれの領域で分析をして、最終的にすきなトピックでその言語についてのレポートを書いて完成させるという授業です。

評価:

 授業の性質上、出席しデータを蓄積しないことには課題が全くできないので休めない授業。学校に行くのが苦手なわたしにしては珍しく全部でた!!!ドヤ。出席・参加で10%、データ・ノート提出で10%、音韻・形態・統語的分析の中間ペーパーが各10%ずつ、そして期末のレポートが50%を占めます。正直労力のわりに中間ペーパーのウェイトが低いので悲しい限りである。っていうかもう中間ペーパーわりと頑張って書いたし期末何書けばいいんだよ……という気持ちでいっぱいです。がんばります。あと地味にデータを打ち込んで整理するのが面倒くさくて泣いている。誰か表の作り方教えてください。

教授・クラスの雰囲気

 統語論のクラスと同じ教授です!好き!!学生がそれぞれ仮説をもったうえでネイティブスピーカーに質問をし検証ができるので、とてもよい経験・練習になったなあと思います。後半は学生が発言する機会が多く、これはこうなんじゃないかとか話し合いもできてよかったです。あと院生レベルだからなのか留学生が超多くて英語下手でもまあいいやと思えてわたしも一番発言ができたクラスです。あと体裁に細かい!!!もう!!!所属学部のWritingの授業はとてもレベルが高くて面白かったけどもっとこう数理的な評の入れ方も指導してほしかった……。さすがに院生レベルのクラスなのでそんなの書き方ならってないよ!!!おれは悪くない!!!とか言えないよなと最近は覚悟を決めて表ちゃんと作ろう……と思っています……。ウッ。

 

 はい!ということでアメリカの授業の履修一般についてと、わたしが今学期履修したクラス(と言語学)の紹介でした。すげえ長くなってしまった。いえ~~~~い。何かの参考になったり、おもれ~って思ってくれたらうれしいです!ばいび!

 

 

 

*1:そんなスケジュールを組むなんてにんげんとしてだいじょうぶなのでしょうか。わたしは絶対受けたくないね!

*2:手話はまた別だよ!ちなみに手話も立派な言語だよ!

*3: 赤ちゃんがさらされる言語環境には、いい間違いや言いよどみを多数に含んだ発言が含まれており、かつ、こういう物言いは非文法的だよといった指導も受けることはめったにないので、見聞きした文の蓄積だけでは「無限の文章の理解と算出を可能にするべき文法がどういう構造か」ということを確定することができないという言語獲得上の問題のこと。"1,2,3,4,...."の数列の続きは?と聞かれたときに、"1,2,3,4,10,20,30,40,100,..."とか"1,2,3,4,3,2,1,2,3..."といったような可能性を完全には排除できないために、このような問題提示をされた場合、条件が不十分で"1,2,3,4,5,6,7,8,...."と断じることは必ずしもできないという、『数学ガール』という作品でミルカさんが言ってた話が近いなって思っています。

*4:ピジンとは母語が異なる人々が必要に駆られて生み出した人間言語としては文法構造において未熟なことばのこと。主に昔のプランテーションにおいて、母語の異なる労働者が、なんとか仕事を進めていくために単語だけを支配的な(社会的にだよ!この例だとだいたい英語だよ!)言語から借りてつくりだしたものをいいます。"Long time no see"もピジン発と言われていますね。んで、おもしろいのは、このピジンを聞いてそだった労働者のこどもたちは、これに文法機能を組み込んで、きちんとした文法構造をもった人間言語に進化させてくれるんです。すごい!!!つまり大人や周りのことばから学んだ、というわけではなく、もともと人間の脳には、言語を理解するための雛形みたいなものがあって、特に子供の時に活性化しているのだ、ということが言えるのです。

*5:語レベルでの言語の分析。接頭辞や接尾辞、その文法的・語彙的役割を考える領域