ひびの祝福

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言語学修士課程の院試を解いてみたよ!

 千代子です。寒いね!!!さいきんのわたしは毎日がんばって大学に通っています。11月に欠席を繰り返しすぎたため、出席を比較的厳しく取るタイプの授業群はあと一回でも欠席すると不可がつくというめちゃくちゃ厳しい雰囲気になっており、かなり必死です。はい。

 ということで授業に出て普通に言語学の勉強しているなかで、せっかく勉強してるんだしなんか書きたいなーと思ったので今回はゴリゴリの言語学の記事を書くぞ!以前も言語学という学問がどのような問題意識を持っているのか、具体的には何を対象としているのかといった記事を書きましたが、今回は具体的な大学院修士課程入学試験問題を取り上げて、言語学における専門用語を使った回答の記述を試みたいと思います。具体的なイメージがわいて、言語学に興味を持ってもらえたら嬉しいです。学部レベルの授業を大学で2年受けたくらいの知識で書くので(書けるので)、院試といえどそんなに死ぬほどムズイわけではないよ!安心してね!!では早速行くぞ!取り上げる問題は、九州大学大学院人文科学府修士課程の平成28年度第一期入学試験の問題になります*1 こちらからどうぞ!

 

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 上記のPDFファイルから一部抜粋しました。今回は第一問のみをとりあげたいと思います。

 まず問題を解く前に、基本的な知識や用語の説明をします。この問題は言語学のうちでもとくに音声学・音韻論の領域の問題であり、redupulicated form, 重複形はどのように作られるのか、その規則を記述せよとあります。重複形というのは、日本語だとひとびと、やまやま、まちまちといったように、単語の一部または全体を繰り返すことによってできた新しい単語(この場合では、名詞の複数形)のことを言います。問題のManan語では、形容詞を作るときにこの重複形を利用しているようですね。

 また、単語を記述しているアルファベットのようでアルファベットではないようなこの文字についてですが、これは国際音標文字(International Phonetic Alphabet, 略してIPA)で、人間言語に現れるすべての音に一つずつ文字が割り当てられています。人間言語の「音」を記述する際はこのIPAを使います。IPAのどの記号がどの音に対応しているのかについてはひとつひとつやっていると死ぬほど大変で長くなってしまうので、ここでは不正確ではありますが、問題を解くのにはあまり支障がないので、まあだいたい普通のアルファベットぽく読んでください。英語の辞書には発音記号としてIPAらしきものがIPAっぽく使われているので、まったくなじみがない!!!!ということもないでしょう。あと記号についてもう一点、それは時々文字の上についている「チョン」のことなのですが、これはアクセントを表しています。これも英語の辞書にも似た記述があるので見慣れているかな。Manan語はアクセント言語であるので、アクセントの位置がどのように決定されるのか、つまり重複形を作った時にどのように変化するのかについても記述が求められます。

 ということで具体的にデータを見ていきましょう。単語のどの部分がどのように重複しているのか、アクセントはどのように変化するのか、この二点に留意して眺めてみましょう。

 1:どの部分が重複するか?

  データ(1)(2)(6)(10)(13)(これらをデータA群としましょう)を見ると、単語全体を繰り返しているように思えますが、(3)(4)(5)(7)(8)(9)(データB群)を見るとどうやらそうではないようです。これらは単語のお尻のほうだけを繰り返していますね。(11)(12)(14)(15)(データC群)を見るとお尻のほうを繰り返したもの、とも一致していません。一部が失われているからです(ragogoからは、(3)のようにragogogogoが予測されますが、実際はgoがひとつすくないragogogoです)。

 それぞれの単語ごとに繰り返される部分が違うようですね。上記の記述はデータの特徴の整理にはなっていますが、回答は、これらに共通する一般的な法則を、なるべく細かい条件を付けずに説明したものになっていなければいけません。この規則を抽出するということが大切です。

 そのためにいくつかの専門用語と概念を導入します。

 データ群によって得られる重複形が異なるということで、それぞれのデータ群同士でPlain form,元の形の何が異なっているのかを見てみましょう。まずA群とB群の元の形比べるとなんとな~くA群のほうが単語の長さが短くて、B群のほうが長い感じがします。ということで、単語の"長さ"、あるいはその単位について表す用語を導入しましょう。

 Syllable、シラブル、という単語を聞いたことはありますか?日本語では音節といいます。この音節というのは人間言語一般に共有されている基本的な言語音声の単位となるものです。例えば、beautifulという単語は、beau-ti-ful の3音節の単語です。catという単語は1音節です。音節はさらに3つの部分に分かれていて、それぞれonset, nucleus, codaと呼ばれています。ものすごい雑な説明をすると、onsetは音節の頭のほうにある子音、nucleusは音節の中心にある母音、codaは音節のお尻にある子音のことです。catという音節はそれぞれに音がひとつずつありますね。人間言語一般に、どの音節もnucleusは持たなくてはなりませんが、onsetとcodaについては言語ごとに条件が違います。例えば英語では、beautifulの例などを見るとわかるように、onset・codaはいずれも任意の要素です。あってもなくてもいい。翻って日本語では、onsetは任意ですが、codaは限られた要素しか基本的には来られません(たとえば /n/(いわゆる「ん」)など)。onset, nucleus, codaのそれぞれの位置のどのような音が許される、あるいは許されないのかについても言語ごとに異なります。

 ながながと書きましたが、まあこの音節を単位にして使えば、単語の長い短いについて言及できそうですね。さっそくデータA群とB群の元の形の音節数を数えてみましょう。すると、A群の単語はすべて1~2音節、B群の単語はすべて3音節になっていることが分かります。ふんふん。

 ここでA群とB群に共通するような繰り返しの規則はどう記述できるか考えてみますと、「後ろから数えて2つ分の音節が繰り返される」というのはどうかしら?となります。だいたいあっているように見えます。しかし、A群のうちのそもそも音節が一つしかないもの((1)と(10))もありますし、B群のうち(5)(9)は後ろから数えて1つ分の音節しか繰り返されていません。結構例外が多いですね。困った。どうやら音節を単位として数えるとうまくいかないようです。

 ということでここでまた別の単位が登場します。それはモーラ(mora)です。これは音節構造をもとにしたもう一つ別の音を数える単位で、日本語母語話者にとってはむしろこちらのほうがなじみが深いでしょう。というのも、日本語はモーラカウントの言語だからです。

 といわれてもなんのこっちゃという話だと思うので、モーラの定義について説明します。モーラというのは、音節の”重さ”を数えるものだと言われます。長さじゃないんかい!!!という話なんですけど音節が”重い”と実際使われる音数が多くなるのでまあ長さと似たようなものだと思ってください……。で、この重さの数え方ですが、ひとつの音節について、nucleusにある母音が短母音でcodaに音が何もない場合(ちなみにcodaがない音節のことを開音節opne syllableといいます)の場合は重さ1、nucleusが長母音で開音節のばあいか、あるいは、nucleusが短母音でcodaがある場合(開音節でない場合)重さ2と数えます。わかりにくいですが、ひらがなを使うと一発でわかります。というのも、日本語のひらがなはこのモーラ1つあたりに一文字になっているのです。

 「おかあさん(okaasan)」を例にとりましょう。これを音節にわけると、"o-kaa-san"と三音節になります(日本語ではkはcodaに来られないのでこうなります)。でもひらがなでつづると5文字……つまり5モーラの単語であるということです。どうなっているかというと、第二音節の"kaa"は、長母音を含むので2モーラ分になっているのですね。ひらがなでは「かあ」と書かれます。第三音節の"san"には、codaとして"n"が含まれているので、こちらも2モーラ、実際「さん」とつづられています。ちなみにちいさいつ「っ」も1モーラ文です(ex.「にっぽん(nip-pon)」)。これでだいたいモーラは数えられるようになったのではないでしょうか!?雑なうえに駆け足でごめんよ!!!

 では、こんどはこのモーラを使って各データを眺めなおしましょう。

すると、先ほど例外として挙げたほとんどのデータ(A群の(10)のみを除いて)は、「後ろから数えて2つ分のモーラが繰り返される」とするときれいに説明できることになります。例えばデータ(5)の"sulum"は、音節にわけると"su-lum"、これをもとにモーラを数えると、第二音節にcodaがあるので、3モーラとなり、後ろの2モーラ分は"lu-m"が該当し、実際にこの部分が繰り返されています。いいね!ただA群の(10)はそれでもどうしようもないですね。うーん。でも先ほどに比べるとかなり例外が減ったので、音節ではなくモーラ基準で考えるのはある程度妥当性がありそうです。ひとまずここは先に進みましょう。

 さあやっとA群とB群の比較がいちおう落ち着きました。ここでわかったことをもとにつぎはC群を考えましょう。C群のデータの特徴は後ろから数えて2モーラ分繰り返されたものよりも、1モーラ分少ない形が重複形となっているところです。C群の元の形の、A群やB群との違いはなんでしょう?これは割とすぐわかりますね、後ろの2モーラが完全に同じモーラの繰り返しになっている点がC群のデータの特徴です。よって、A・B群と同じ規則で重複形を作ると、同じモーラが4つ連続してしまうわけです。1モーラ分削りたくなるのもなんとな~くわかるような気がしませんか?この現象(に類似する現象)として、重音省略(haplology)があります。これは、連続した2つの連続した同じ・あるいは似通った音節のうち一方が省略される現象のことを言います。まさにこれだ!!!!日本語にも例があり、「体育」なんかはもっともわかりやすい例のうちのひとつではないでしょうか?たいてい、「たいいく」、ではなく「たいく」、と皆さん発音しますよね。Manam語の重複形にもこの種のことが起こっていることが推測されます。とはいえ、Manam語では3連続まではOKっぽいのがちょっと難しいところ。とりあえず、先のルールに加えて、「繰り返される部分が同一の2モーラの連続の場合、重音省略が起こり、1モーラ分省略される」と記述しておくにとどめましょう。

 ということで、だいたいどの部分がどのように重複されるのかはわかりましたね(まだいくつか不明点は残りますが)!!!!次はアクセントがどのように付与されるかを見ていきましょう。

2:アクセントはどのように付与されるか

 アクセント付与の規則についてですが、Manam語のような強勢アクセント(どこを大きく、高く、長く発音するか)言語の場合、Footという概念を使うことでうまく説明できることがあります。また新しい概念が出てきた!!!!!ゆるしてくれ!!!!

 Footというのは、先ほど説明した音節やモーラよりももうひとつ大きな音の単位になります。フットというのは、一定の数の音節あるいはモーラをひとまとまりにしたもので、2音節あるいは2モーラで1組とするものが例が多いです。日本語は典型的に2モーラ1フットですね。略語とかがわかりやすいと思います。パソ-コンとか、ハイ-テクとか、けい-おん!とか。で、このフットをもとにいくつかの条件を組み合わせることで、アクセント付与の説明ができることがあります(最適性理論の枠組みになります、これめっちゃかっこいい理論なんですけどそれをはなすとまた長いので注釈見てくれ!!!*2

 まず、人間言語一般において、アクセントパターンには、要素が2つの時は、「強弱」と「弱強」の2パターンがあり、前者をTrochaic pattern、後者をIambic patternといいますが、①言語ごとにどちらなのか違ってきます。

 つぎに、フット形成について、②何音節・あるいはモーラで1フットなのかという基本的なルールが必要です。また、③1フットあたりの音節・あるいはモーラ数は厳守、なのか、あるいは④すべての音節あるいはモーラはフットに属さなければならないのか、といった条件(とその優先度)が言語ごとに違ってきます。 

 また、フットの数え方について、⑤語の頭(Align left)あるいは語の後ろ(Align right)から数えるのか も言語ごとに違ってきますし、⑥何番目のフットに主アクセントを付与するのか(語頭ならLeft most、語末ならRight most)でも違ってきます。

 以上上げた①~⑥の条件が、このManam語ではどうなっているのかを確定できれば、このアクセント付与がどのように行われているのかという問題に答えたことになります。なんか例とかもなしにがんがん6つも条件いってごめんね、これから具体的に見ていくので適当に読み飛ばす程度でいいよ!いくよ!

 さて、まずManam語は1フットあたり何モーラなのか(②)についてですが、さきほど「お尻の2モーラ分」とのことだったので2モーラ1フットが基準(つまりさきほどのルールも「2モーラ1フットカウントで、語末の1フットが繰り返される」と言い換えることができます)、お尻からフットを数えていることから⑤についてはAlign right、かつアクセントは全データにおいてお尻の1フット2モーラのうち(つまり⑥は語末のフットにアクセントを付与するということなのでRight mostとなります)1番目のモーラについているので強弱、つまり①についてはTrochaicアクセントであることがわかります。

 そして先ほど例外としてあげたA群のデータ(10)がここできいてきます。このデータでは1モーラしかないのに、それ自身が繰り返されて重複形ができあがっています。ここで③④の条件がどのようになっているかを確定できます。1フット2モーラである以上、奇数モーラの語では、フットを作ろうとすると、かならず1モーラ余ってしまうのですが、そのあまりの扱いについてが、この③と④で規定されます。このあまりのモーラについては、あまったのでフットにそもそも入れないという方法(フット内のモーラ数厳守ということで③にあたります)と、あまったけどフットに全部収めたいからモーラ数が足りてないけどむりやりフットにするという方法(こちらは④にあたります)の2通りの処理が可能です。これまでのデータとその説明との一貫性を保ったまま、データ(10)を説明しようとすると、どうやら、Manam語では③ではなく④のようです。(10)の"pi"は1モーラで通常の2モーラ1フットにはなれませんが、むりやりフットに収めるために、単独でフットとして扱われ、そこに「語末の1フットが繰り返される」というルールが適用され、"pipi"という重複形が得られるようです。

 まとめると、Manam語のアクセントは、

①基本パターン:強弱アクセント

②1フットあたり:2モーラ

③1フットあたりのモーラ数は:厳守されない

④すべてのモーラはフットに:属さなければならない

⑤フットを数えるときは:語末から

⑥アクセントを付与するフットは:語末フット

という風に記述されます。これでこの問1に答えたことになります。お疲れ様です!!!!!!だいたいこんな感じでまとめてみましょう。

 

「 Manam語は、モーラ基準の言語であり、1フットあたりモーラからなる。また、すべてのモーラはフットに属さなければならないため1モーラのみでもフットを形成することがある。加えて、フットは語末から形成される(Manam語における基本的な音韻ルールの説明)

 重複形は、基本的に語末の1フットが繰り返されて形成される。ただし、1フットが同一の2つのモーラから形成されるときは、重音省略が生じ、本来より1モーラ少ない形が重複形になる(重複形の形成についての説明)

 Manam語のアクセントは、強弱パターンであり、語末のフットに付与される(アクセント付与の説明)。」

 データを眺めていてなんとな~く感じた規則やルールも、専門用語を導入することでこのようにすっきり記述することができました。こんなにすっきりしているのにすべてのデータにあてはまる説明になっています。専門用語すご~~~い!!!

 ということで書いてみた!!!!もちろんわたしはまだまだ勉強中の身なのでこの答えや説明には不適切な部分が多々あるかと思いますが(あったら指摘してね!!!お願いします!!!!!!!とくに重音省略のくだりは不安です!!!!)、大筋ではだいたいあっているんじゃないかしら……と思います……。あっていなかったとしても、導入した概念について、なるほどにゃんね~言語学ではこういう枠組みで分析してるにゃんね~~~と思ってもらえたらうれしいです……。なんかちょっとどうしよう、ここまで誰も読んでくれてる気がしないぜ!!!!でも書けてよかったです……自分の勉強になりました……。ということでお疲れさまでした!!!!!!!!!!ここまで読んでくれた奇特な人はマジでありがとう!!!!!!!!!!

 また、もっと問題ときた~い、みてみた~いというひとは、上記の九州大学のHPにたくさん過去問がありますし、国際言語学オリンピックというのもあるので、そちらも要チェックだ!言語学オリンピックについては、のらんぶるさんというひとのこういう記事がとってもとってもおすすめだよ!言語学オリンピックは専門用語を使わない分もっととっつきやすかもしれないです。

nolimbre.hateblo.jp

 

またね!!!!!

*1:なぜ九州大学なのかというと、以前ふんわり院進学を志したことがあり、国立大学で言語学ができてかつ外国語の試験が英語のみのところないかにゃ~と調べていた時に見つけ、過去問もインターネットから入手できるしここ受けようかしらと考えたことがあったからです。

*2:最適性理論とは、それぞれの言語の音韻パターンの違いを、人間言語に共通な複数の音韻規則の種類と優先度の付け方の違いとしてとらえる理論。アクセント付与についても、下記に挙げる①~⑥の条件の優先度や内容を言語ごとにうまく調整することで説明ができます。ほかにも、借用語をどのように自分の言語の音体系に落とし込むかもこの最適性理論で説明できることが多いです。最適性理論は、すべての人間言語に共通のルール(原理・原則)を仮定することで言語の普遍性を、そのルールの優先度の違いで言語の多様性を説明しており、生成文法の考えと似ているのでわたしはすごく好きです。)